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歯周病とはどんな病気か? |
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歯周病とは、古くから「歯肉や歯を支える組織の疾患」と言われてきましたが、最近の20年で研究は進歩・発展し、歯周病は細菌による感染症であることが明らかになっています。その一方で、肥満や糖尿病などの全身疾患と歯周病とのかかわりも次々に解明されつつあり、歯周病は感染症であると同時に、生活習慣病とも言われるようになってきています。生活習慣病と言えば、肥満、糖尿病などがその代表例ですが、これらはその人の生活習慣と大きなかかわりを持っていると言われています。歯周病も食後の口腔清掃を怠ったり、喫煙などの生活習慣が影響する生活習慣病の一つです。さらに、歯周病と肥満や糖尿病などとは、歯周病が糖尿病や肥満、心血管系疾患を悪化させる、あるいは喫煙や糖尿病が歯周病を進行させるなど、双方向の相関関係があるという研究報告も発表されています。 |
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1) 歯周病原細菌と歯周病の関係 |
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最近の細菌学的な技術の進歩により、約400種も存在するといわれている口腔内の常在菌の中で、
歯周病は次に示すような歯周病原細菌による感染症であることが、さまざまな研究で立証されています。
歯周病原細菌は、初めに人から人へと感染し、健康な歯肉の歯肉縁上あるいは縁下細菌叢に定着し、
増殖に好条件の仮性ポケットができること、そこに入り込んで増殖し、さらに進行した歯周ポケット内で病原性を発揮すると考えられています。
歯周病原細菌は、嫌気性(酸素を嫌う性質)菌で、歯周ポケット内では単体ではなく、複数の細菌が共生してコロニーを形成していることも明らかになっています。
これが歯周病の原因となる細菌性バイオフィルム(以下、バイオフィルム)です。 |
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2) バイオフィルムの特徴と歯周病への影響 |
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バイオフィルムは、微生物、細菌などが外敵の攻撃を逃れ棲息するために、付着・凝集によって物質表面に形成するフィルム状の細菌叢(魂)のことです。
増殖したバイオフィルムは表面に作られた被膜をバリアとして、抗生剤や殺菌剤の浸透を防御しつつ、
歯周病原細菌の産生する酵素や菌の内毒素であるリポ多糖(lopopolysaccharide、以下、LPS)が生体に作用し炎症を誘発する一方で、
歯周病原細菌は生体の防衛反応からも逃れ棲息し続けます。 |
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○ なかなか発症しない人、進行が早い人の違い |
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同じ量、質のプラークが存在しても、歯周病発病感受性の違いによって、歯周病を発症する人としない人がいます。
この違いの理由として、細菌に対する生体反応の違いが考えられます。若年性歯周炎(浸襲性歯周炎)あるいは広汎型重度歯周炎の患者では、
炎症性メディエーター(損傷した組織、および炎症部位の白血球や肥満細胞、マクロファージなどが放出する整理活性物質)をつくりだす能力が
人によって異なることが、歯周病の発症、進行にかかわっていると考えられています。また、早期発症型歯周炎(浸襲性歯周炎)が |
多発する家族を対象とした家系調査でも、歯周病の感受性には遺伝子的要因が深くかかわっていることが明らかにされています。 |
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○ 炎症とリンパ球の応答 |
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生体に侵入した歯周病原細菌に対して、生体防御反応により白血球が対峙します。
白血球の25%ほどを占めるリンパ球は、NK細胞、B細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)などの種類があり、
抗体を使って異物を攻撃しています。また、白血球の1つ、マクロファージは生体内に侵入した細菌、ウイルスを
捕食し消化します。 しかし、マクロファージやT細胞は、結果的にIL−6、IL−8、TNF−αなどの炎症性 サイトカインを産生し、炎症を促進し歯周組織を破壊しています。 |
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○ 炎症性サイトカインと歯周組織の破壊 |
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サイトカインは、生体を構成している細胞が分泌するタンパクで、自身、周囲の細胞に増殖・分化等を 調節するシグナルを伝えています。 サイトカインの作用は炎症反応、創傷治癒、骨の吸収や形成などに関与するものまで多種多様です。
一方、歯周組織を構成する細胞には歯肉繊維芽細胞、歯肉上皮細胞、歯根膜細胞などがあり、そのほかにも種々の免疫担当細胞があります。 歯周炎が起こっている病巣では、これらの免疫細胞がサイトカインを産生します。 本来は正常な歯肉の維持に不可欠なサイトカインですが、
歯周炎の部位で持続的に作りだされることで、正常なバランスが崩れ歯周組織の破壊を促進します。
これらのサイトカインは炎症のある歯周組織中に多く見られ、歯周治療を行って炎症が消失すると著しく減少します。 |
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○ 骨吸収のメカニズム |
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歯周組織の炎症が進むと炎症性サイトカインによって破骨細胞が活性化し、骨形成と骨吸収のバランスが崩れることで骨吸収が始まります。 |
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歯周病のリスクファクターと全身疾患、全身状態との関わり |
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歯・口は消化器官の一部として身体全体とつながっているため、口腔に発症した病気が全身に、また、全身の病気や状態が歯・歯周組織に影響するなど、歯周病と全身疾患とは双方向に関連し、影響する可能性が高いといえます。 |
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1) 歯周病のリスクファクター(細菌因子、宿主因子、環境因子) |
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歯周病と全身状態の関係は、「歯周病が全身疾患を引き起こす要因となっている場合」と、
それとは逆に「全身疾患に罹患することで歯周病を悪化させる」という二つの方向性があることが、多くの研究で明らかにされつつあります。
たとえば、全身状態を改善することが、歯周病の改善につながる例としては「糖尿病の治療」や「禁煙」が挙げられます。 一方、歯周病に罹患することが全身の健康状態に影響するとされているのは、糖尿病、心血管系疾患、呼吸器系疾患や早産・低体重児出産などが挙げられています。
その他の要因についても、さまざまな研究が進み、歯周病と全身疾患の相関性について次第に明らかにされつつあります。 |
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2) 全身疾患、全身状態から歯周病への影響 |
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歯周病悪化の原因になるとされているのは全身疾患である糖尿病や、生活習慣としての喫煙が代表的なものです。
歯周病は生活習慣病ともいわれ、喫煙などの毎日の生活習慣が大きく影響します。
歯周病は細菌による感染症であると同時に、生活習慣病でもあるといわれるのはこのためです。 |